「広告代理店のみなさまへ」

平和

娘がころんだ

ラジオ体操のとき
お友達を呼びにいった帰りみち
走りながらずっこけた

駆けて 転んで 擦りむいた
手のひら 脇ばら 膝こぞう
傷がジュクジュク えーんえんえん

息子が仕掛けていた

額に汗をかきながら
ペットボトルで罠をつくって
バナナを入れていた

作って 入れて 木にくくりつける
カブトか クワか オスメスか
なにが捕れるの ドッキドキドキ

走る息づかいも 苦しくなる心臓も
会えた喜びも 傷ついた痛みも
工作する手先も 考える時間も
仕掛ける緊張も 高鳴る鼓動も

あの日 すべて消えたのか

だけど
すべて失う怖さが分からない
すべて失う悲しみが分からない

分からなくても
考えても分からないから
平和を祈るために目を閉じた

暗闇だ なにも見えない
見えないのに なにか見える
周囲の明かりか 思い出か
暗闇なのに 輪郭がある

暗闇にも 命を感じる

長男がシンダラ
次男がシンダラ
娘がシンダラ
妻がシンダラ
シンダ大切な人たち

暗闇の先へ行こうとした途端に
まつ毛がぬれて 涙がほほをつたう

すべて失う怖さが分からない
すべて失う悲しみが分からない

だけど
死に手をかけたら
人差し指がふれただけなのに
まつ毛がぬれて
涙があふれ出てくる

死におおわれた世界が
どれだけ怖いことか
どれだけ悲しいことか
やっぱり今年も分からない

だけど
やっぱり今年も泣けてきた