「広告代理店のみなさまへ」

子どもの身だしなみチェックは、靴をはくまで油断ならない。

風、なぎたおしてゆく。
雨、うちつけてゆく。
雷、おどしつける。

傘、はぎとられ。
服、しみこまれ。
教室、かけこむ頃。

左へ右へ ゆれる杉林の前で、
雨が粒になった。

前に後ろに ひびく雷の下で、
雨が煙になった。

長靴をはかせて正解だった。

なにしろゴムでつくられて、
足がぬれない。

足がぬれると厄介だ。
なにせ風呂に入るとき、
川や海に入るときしか足はぬれない。
足がぬれると忘れてしまう。

いやなことを忘れてしまう。

これから授業だというのに。
足をぬらしてしまっては、
授業は音になって流れてしまう。
形にしようとした先から、
くずれて忘れてしまうだろう。

正確にいえば、
長靴をはかすまでは正解だった。

寝ぐせはないか。
肌着はきたか。
襟はただしたか。

爪はきったか。
傘はもったか。
長靴をはいたか。

身だしなみは確認したが。

娘よ、
アントニオ猪木もいってるだろう。

この道を行けばどうなるものか。
危ぶむなかれ、
危ぶめば道はなし。
踏み出せばその一足が道となり、
その一足が道となる。
迷わず行けよ。
行けばわかるさ。

その一足とは、
左足であり、右足なのだ。

なぜ、あなたが帰ってきたあとには、
右足の長靴しかないのだ。

雨にぬれるかどうかより、
二足歩行の動物として、
気づくべきことがあるだろうに。

なぜ左足を置き忘れたのだ。

……….