「広告代理店のみなさまへ」

必要なのか不要なのか、分からないやつが大切だったりするよね。

「今晩、ハンバーグでもつくろうかな。」

その一言がアダとなってしまった。ひき肉があるので、妻が「シュウマイ」をつくろうとしていたのに。

「ハンバーグ」

その一言が、つい口からこぼれ落ちた途端に、視線がビシッとささった。

たまたま女性と目があって「イヤイヤ、見てたわけじゃないからね!」と、心のなかでジタバタするのとは明らかにちがう。

がっつり、見てるヤツがいる。

ヨダレを垂らしながら、息づかいまで聞こえるようだ。ハァハァ…こんな視線をおくるヤツはひとりしかいない。そう、娘だ。

「やっぱり、シュウ…」

「ハンバーグ!」

「ハンバーグもいいけどね、シュウ…」

「ハンバーグ!!!」

狂おしいほど目をランランとさせて、こっちを見ている。こうなると、もうだれにも止められない。

軌道修正しようものなら泣きわめいて、すさまじい脱線事故につながってしまう。

しかたがない。チャチャッと準備してハンバーグを焼いていこう。今日はタマネギを炒めるんじゃなく、おろして混ぜてみよう。

「まずはタマネギ…」

「わたしがこねるー!」

そうですよね。しりとり、リンゴ、ゴリラ、ラッパ、なみに既定路線。だと思いましたよ。すりこ木で、いっしょにこねていきますか。

「ほら、お兄ちゃんは炭に火をつけて。BBQグリルで焼きあげるからさ。」

「分かった!ま、まかせて。」

仕事をふられることをイヤがって、iPadをみつめたままの次男とちがって、長男の素直なこと。顔にも「着火できるか不安です」と書かれている。

長男よ、妻のもとへ走れ。

そして次男よ、君も走るのだ。

やつは火遊びを愛している。キャンプでも、到着すれば炭への着火をはじめてしまい、タープやテントの設営を手伝わない人だ。

こちとら汗をながして、風にあおられながら必死で設営しているというのに、もくもくと着火をながめる人だ。

息子よ、火の神のもとへ向かうのだ。

次からは、君たちが着火当番だ。

彼女から着火を教えてもらうのだ。

それから、娘との楽しいハンバーグ生地づくりがはじまった。どちらかがボウルをおさえて、すりこ木でこねていく。

「ひき肉って、手の温度でパサパサになるんだってー。」

などと、ホントかウソかも分からない話をしながら「トントントントン」こねていく。そしてハンバーグ生地ができあがったころ、長男がもどってきた。

「着火、おわったよー!」

これでハンバーグを焼く準備はできた。あとは整形して、スキレットにのせて焼くだけ。そうだ、家族みんなで自分のハンバーグを整えていこう。

家のなかを見渡した私は、気がついた。

妻の姿がないのだ。

まさかと思い、BBQグリルのもとに駆けていくと、炭火のまえで両足をひろげて蹲踞(そんきょ)する彼女がいた。「火はゆずらねぇ」と言わんばかりに。

あまりの迫力に、つい立ちどまった私を目にした彼女が、口をひらいた。

「よう、できたよ。」

なにが彼女をそこまで燃え上がらせるのか分からないが、やはり着火は、着火だけはゆずる気がないようだ。

「ありがとうございまっす。」

なぜか、私は敬語になった。

娘がこねた生地がよく、妻が息子とつけた火加減もよくて。それはそれはふっくらと、家族のおかげでおいしいハンバーグが焼きあがった。

こうして、私の「ごきげんとり」の一日が終わった。

ハンバーグも家族も、つなぎが大切なのだ。