「広告代理店のみなさまへ」

だれにでも、水に流したい思い出のひとつはあるはず。

陽射しはあついが、風は肌ざむい。

営業先からもどり、ハンカチで汗をひと拭きして‪、足早にエレベーターに乗ったときもこんな天気だった。

「プッ…」

だれだろう、オナラしたのは。

みんな鼻も澄ませてシーンとしていた。

今日はひさしぶりの登校日で子どもたちがおらず、昨日は早めのプールびらきで騒がしかったこともあって、あの時のように我が家は静まりかえっている。

風とともに、シジュウカラのさえずりがそよぐ。

「チュピィ チュピィ チュピィ」

まるで、昨日まで玄関先のプールであそんでいた子どもたちのようだ。とおくで聞こえるザワメキを思い出しながらコーヒーを飲んでいると、

「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

午前9時でおわった中学生の息子が、あおざめた顔で走ってきた。まるで不倫会見をするタイガー・ウッズのように、目が点になっている。

小声で「ただいま」といったかと思えば、そのまま便器にホールインワン。

あっ、そうだった。

そういえば彼は、朝からゲリピーだった。

いつ処方されたか分からない整腸剤を飲んで持ちこたえてきたが、下校途中で腹痛におそわれたのだろう。

ナイスショット。

間にあって良かったと胸をなでおろし、安堵につつまれた。しかし、息子より遅れて帰ってきて、手を洗った娘の告発で真実を知ってしまった。

「なんでお兄ちゃんのパンツがあるの?」

(間に合わなかったのね)

当たらずさわらず、そっと流してあげよっと。